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上司に期待されていることは?

 先月参加したMOT研究会の会合でいただいた、玉川大学名誉教授野渡正博氏の「グローバル インダストリアル チーム ダイナミックス」を読みました。学位請求論文としての著書なので統計学的な解析など難解な部分もありましたが、研究目的にかかる問題意識、先行事例がほとんどない中での独自の手法の構築、さらに広範囲なアンケート調査と入念な解析など、大変勉強になりました。
 「チームワーク」という言葉は仕事の場面でよく使われる重要なキーワードですが、野渡氏は暗黙知としてしか使われていないことに着目し、これを形式知にすべく研究に取り組んでいます。製造業における生産性に影響する因子を抽出し、その影響の大きさを、階層別、規模別に分析し、かつその因子相互の関係も明らかにすべくさまざまな調査をしています。仮説を立て、アンケート調査の解析により実証していますが、その中で「唯一却下された仮説」がとても興味深い内容でした。
 それは「リーダーの実作業参加度の増加は必ずしもメンバーのチームワーク認識を向上させるわけではない」というものです。これを読んで、私はかつて体験した、金融機関の事務センター時代の仕事を思い出しました。
 決算期など、山と積まれた仕事を前に残業が続くことがたびたびありました。私が知っているあるセンター長は、そういう時には必ずと言っていいほど作業の中に入って、「検印」と言われる作業に参加していました。そして、ほかの幹部社員が通りかかると「まだ終わらないんですよ~」と訴えるのです。
 それから2年後、たまたま私がその後任者となりましたが、まったく違った行動をとりました。まず現場を回ってみんなが仕事をやっている動き、表情などを観察しながら激励することに努めました。これは失敗学会で畑村洋太郎先生から教えられた「三現主義」(現場、現物、現人)の実践でした。しかし、自分が作業に入ることはしませんでした。判断すべき立場の人が繁忙状態の作業に入ってしまうと、ちょうど砂漠に落とされた一滴の水のように消え行ってしまい、本来の機能が発揮できないと考えたからです。そして、どこに問題がありそうか、それはどうすれば解決できそうかを考え、課長連中と相談しながらひとつでもふたつでも手を打ちました。
 もしかしたら、「上司がいっしょにやってくれる」光景は部下の人からはとても魅力的で、私のような行動は冷淡に見えたかもしれない、と思うこともありましたが、上記の著書で紹介された実証結果は、異なる傾向を示していると言えます。マネジメントの立場から、現場の実態を見ること、現場の苦しみと喜びを共感することはとても重要ですが、本来の重要な仕事は、それを踏まえて資源配分や業務改善についての采配を振るうことだと再認識した次第です。「日本の生産性の低さ」を考える際、ひとつの重要なヒントであるように思えます。

 

#上司 #管理職 #チームワーク #生産性

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コメント: 1
  • #1

    岡田 康 (水曜日, 27 11月 2019 23:25)

    グローバル インダストリアル チーム ダイナミックスでの仮説は興味深いですね。
    リーダーの事務作業参加は一見して部下から魅力的に見えると、上司の方は思いがちですが、
    けっこう自己満足にとど待っていることが多い。また、部下からみると慣れていない上司の参加は
    必ずしも能率面からそうでもないことが多い。