一日の大半の時間を過ごしているオフィスが「働きやすい職場」であるかどうかは、その人にとって最も重要な問題でしょう。
長時間労働やハラスメントがある「ブラックな職場」であれば、働き続けることは困難です。
そして、人事評価が適正に行われているかという点は「働きがい」に影響する重要ポイントです。
職場が働きやすい環境になっていることが、人材の定着や業績の向上に欠かせない条件と言えます。
株式会社オフィスソリューション 代表取締役 宮﨑 敬
三菱UFJ信託銀行で事務マネジメントを長年にわたり経験し、定年退職翌日に現在の会社を創業。複数の学会に所属しながら研究活動を続け、「実務経験と研究成果を裏付けに実務と経営に貢献する」という信条のもと、オフィスワークの品質・生産性向上のコンサルタント業務をオンライン研修を中心に展開中。
- 応援しあえる職場をつくる
- 仕事のやり方を統一する(標準化)
- 「代わりにできる人」を増やす
- 休暇取得促進にも効果を発揮
- 視野が広がると仕事のレベルがアップ
- 人を育てる難しさとポイント
- チームへの貢献を評価する
- 健全で前向きな職場をつくる
- まとめ
決算時の作業集中、需要の変動に伴い仕事量が急増することがあります。
このようなときには他の人の力も借りたいところですが、残念ながら助っ人は急に現れません。
そこで、事前に助っ人になってもらえる人をつくっておけば、必要なときに対応が可能になります。
もちろんその助っ人が自分の仕事を一旦止めて応援できる状態であることが前提ですが、そもそも助っ人になれるスキルを持ち合わせていなければイザというときに安心して頼めません。
そして、お互いに、必要なときには助け合える関係をつくれば、職場全体で負担を軽減でき、仕事の滞留やミスやトラブルを防ぐ効果が期待できます。
また、仕事の滞留も防げれるので、お客さまへのサービスの向上にもつながります。
この一石二鳥ともいうべき効果を実現するためには、二つの課題に取り組みます。
一つ目が「標準化」と呼ばれる手法です。
これは作業など仕事の進め方を標準的な方法に統一し、その内容を実務の中で徹底することです。
オフィスワークでは、仕事の手順が担当している人の頭の中だけにあり、メンバー間で共有されていないことが多いものです。
先輩や前任者からひととおりの説明を受け、そのあとは自分がやりやすいように手順を考えて、それが習慣化します。
このままの状態では、同じ仕事でも担当者によって手順やチェックなどの項目数が不統一になります。
その結果、必要なチェックが洩れてミスにつながる、不要なチェック作業により非効率になるなどの不具合が起きる場合があります。
また、手順が明確に定義されていないと、仕事量の急増、締め切り時間の切迫などの状況では、本来必要な手順を担当レベルの判断で省略し、ミスやトラブルの原因となる場合もあります。
そこで、標準化により、仕事の進め方をあるべき姿で統一し、その内容をメンバー間で徹底できればこのような問題を防ぐことが可能です。
具体的には、マニュアルや手順書を整備し、正しい仕事の手順を定義します。
次に、この手順書の内容について、研修(座学+実務)で習得します。
手順書の作成に不慣れで進めにくい場合は、まず仕事の流れをフローチャートに書き出し、次にそれに沿って詳細な手順を箇条書きする方法がおススメです。
また、実際に使うシステムの画面や帳票のサンプルを活用すると、初めて使う人も短時間で習得することが可能です。
これにより、いつ、だれがやっても同じ品質のアプトプットを同じ時間で出すことが可能となります。
応援しあえる職場づくりに必要な二つ目の取り組みが「多能工化」と呼ばれるものです。
目的は、ひとつの仕事を複数の人が担当可能な状態にすることです。
これを別の角度から見ると、1人の人が複数の業務を担当できる状態をつくることにもなります。
長年担当しているベテラン社員がいると、周囲の人たちはその人に任せておけば安心、と考えるようになりがちです。
またそのベテランの人は「この仕事ができるのは自分だけ!」ということが「やりがい」となっている場合もあります。
しかし、ベテランも人間ですので、病気などのアクシデント、または家庭の事情等での急な退職や転職などで職場から去ることもあります。
その結果、残された人たちが戸惑い、ミスやトラブルにつながることもあります。
また、業務量が増えた時には、このベテランの人の仕事が溜まって、全体の流れが滞るという問題も発生します。
そこで、多能工化を計画的に進めて「ほかにできる人」を育てておけば、このような問題を防ぐことが可能です。
新たな担い手がその仕事を習得するためには、手順書などで仕事の手順が整理されている必要があります。
したがって多能工化の取り組みは、標準化が終わっていることが前提となります。
標準化と多能工化はもともと自動車工場などモノづくりの仕事で活用されてきたものなので、あまりお馴染みでない方もいらっしゃるかもしれませんが、これまでご説明したような効果が期待できますのでオフィスワークでも是非活用したい手法です。
ただし、手順書の作成整備、新しい担当業務を習得する研修などはいずれも時間と労力を要しますので、その必要性をメンバーでしっかり確認し、項目の優先順位を決めて計画的に取り組みます。
また、ベテランの人の仕事を「この人だからできる」という点で評価するのではなく、いかに新しい担い手をうまく育てたか、というポイントで評価するなどのカルチャー転換も必要です。
標準化と多能工化は繁忙状況の緩和、ミスやトラブルの防止、顧客サービス向上、ベテランの負担軽減など、さまざまな効果があることをすでにご説明しました。
感染症問題以降、オフィス出社とテレワークの2班に分かれ、それぞれが連携しながら仕事をすすめるハイブリッドワークを採用する職場も増えていますが、以前よりも少ない人数でオフィスの現場での処理を行う際も、これらの取り組みの効果が期待できます。
さらに、働き方改革以降、休暇の取得促進が進められていますが、標準化や多能工化を進めれば、「自分以外にもできる人がいる」という安心感のもと、気兼ねなく休みを取れる職場をつくることが可能です。
組織の中では分業で仕事が行われ、効率化、専門的ノウハウの蓄積という点で効果があります。
一方、その中で仕事をする人は自分の仕事については詳しく掘り下げることができますが、それが果たしている役割や、他の担当者やセクションの仕事との関連性が見えにくくなるという問題があります。
多能工化に伴い、個々の担当者がこれまで担当していなかった新しい仕事を習得することにより、担当者の視野が広がり、業務全体の流れやエンドユーザーのニーズなどについての理解が深まるという効果も期待できます。
これにより、担当者のモチベーションがアップし、トラブル解決、新規案件への取り組みなどの場面で従来上にスキルを発揮することが可能となります。
多能工化が人材育成上の上でも効果があることをご説明しましたが、人を育てるためには仕組みと工夫が欠かせません。
特に、オフィスワークは複数の理由から育成に苦労することが多いものです。
まず、仕事の成果が見えにくい、という問題です。
例えば営業の仕事では、契約の獲得、新規顧客の開拓などの具体的な成果がありますが、事務などのオフィスワークではこれに相当するものは単位時間あたりのオペレーション件数などに限定されます。
そして、順調に仕事が進んでいれば、それは「当たり前のこと」として特段の評価を受けない一方で、ひとたびミスが発生すると叱責される、という状況では、前向きな仕事の目標を設定するのが難しくなります。
このままでは人材育成はうまくいかないでしょう。
そこで、まず大切なことは、小さくてもいいので具体的な目標を設定し、それができたら褒める、というサイクルを繰り返すことです。
例えば、「次はこの資料を一人で作成できるようになろう」「お客様からの電話照会のうち、この項目は一人で対応できるようになろう」などです。
そして、ひとつひとつの課題について、その業務上の意味を本人がしっかりと理解し、さらにその課題の達成が本人のステップアップにつながることを納得してもらうことも必要です。
【図:小さいことでも大きく褒めるてモチベーションアップ】
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【関連動画:オフィスワーク人材育成のポイントを3分で学べます】
課題を明確にし、達成の都度褒めることが人材育成のポイントですが、仕事の成果に基づいて公平に評価することも重要なポイントです。
その際、どのような評価基準を設定するかが組織運営に大きく影響します。
自分の担当業務を、求められた条件を満たすレベルで完遂することはもちろん重要ですが、改善に前向きに取り組む職場を担う人材を育てるためには、それだけでは不足です。
例えば、自分のチームの同僚や後輩の仕事がうまく進んでいないとき、一時的に自分の仕事を止めてそれを支援した結果チーム全体の成果が達成できれば、その行動を高く評価します。
これにより、その支援を行った人のモチベーションが上がり、またそのような行動が奨励されていることがチーム内に浸透することになります。
常に改善にチャレンジし、人材を人財に高める育成にとりくむためには、その組織が健全で前向きな状態であることが必要です。
そして、改善や育成を通じて、組織を好ましい状態に維持、向上させることが可能です。
健全な組織とは、何か問題があるときに、それを見逃さずに取り上げ、組織として解決できる状態の組織です。
また、前向きな組織とは、失敗から学びながらチャレンジをくりかえす組織です。
組織をこのような状態に改善し、維持するためには次の3本の柱が必要です。
一つ目は、ヒューマンエラーの原因と対策、オフィスワークの特質など、オフィスワークマネジメントに必要な知識と考え方や、失敗から学ぶ必要性や効果などを学ぶことです。また、コンプライアンスなどに関する研修もここに含まれます。
二つ目は、提案制度、適正な人事評価制度、内部告発制度など、組織を件戦に運営するために必要なルールや仕組みです。
そして三つ目が、日々の仕事の中で、この知識や仕組みを活用しながら実践する行動力です。
その中でも、組織内のコミュニケーションが特に需要です。
上司と部下の「縦」だけではなく、同僚や他のセクションとの「横」や「斜め」方向でもコミュニケーションがとれる運営と工夫が求められます。
そして発言しやすく、発言したことが組織として取り上げられる風土づくりを、トップの方が率先して実行します。
これらについての関連情報を以下にご紹介します。
<組織の健全性に関するセルフチェック>
私が以前参加していたNPOリスクセンス研究会では、組織の健康診断(セルフチェック)を提唱しています。
<AIを活用して組織内のコミュニケーションを活性化する>
株式会社ハピネスプラネットでは職場のハピネスが生産性の向上につながるということを、データをもとに研究し、それを実現するための仕組みを提供しています。
https://happiness-planet.org/
【図:健全で前向きな組織をつくるためにそれぞれの役割に求められるミッション】
株式会社オフィスソリューション 代表取締役 宮﨑敬 (みやざきたかし)
【経歴】
1979年 早稲田大学法学部卒業、三菱信託銀行(現三菱UFJ信託銀行)入社
証券代行、外国証券管理等の事務サービス業務領域で現場マネジメントを経験
2004年〜 グループ内関連会社4社において常務取締役を歴任
事務マネジメントに関する経験と研究成果を「事務学」として体系化
社内外での講演、セミナー、業務改善プロジェクト指導の実績多数
失敗学会(特定非営利活動法人)およびリスクセンス研究会(同)の活動を通じて、事故防止、健全な組織づくり等を研究
2011年~ グループ内研修会社にて研修開発・講師を5年間担当し好評を得る
2016年 同グループを定年退職し、株式会社オフィスソリューションを設立
【所属学会・研究活動】
公益社団法人 日本経営工学会 http://www.jimanet.jp/
一般社団法人 日本品質管理学会 https://www.jsqc.org/index.php
一般社団法人 日本システムデザイン学会 https://www.sdsj.sci.waseda.ac.jp/
早稲田大学理工学術院創造理工学研究科修士課程(経営工学)2011年修了
株式会社オフィスソリューションでは、オフィスワークマネジメントに必要な知識、スキル、行動について、「オフィスマイルメソッド」としてわかりやすく体系化しました。
オンライン研修やオンラインコンサルテーションとしてご提供していますので、是非ご活用ください。
2023年11月25日(土)14:00~16:00
オンライン研修(個人受講コース)「働きやすい職場づくり」を開催します。
詳しくは以下のリンクから<個人受講のお申込み>の欄をご覧ください。
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